甘い香りにつつまれて


「アイオリア、何してるの?」アイオロスがそうたずねた時
アイオリアは貯金箱の中のお金を数えているところでした。
「どうしたの?何か欲しいものがあるの?」
と、アイオロスが聞くと、アイオリアは「うんっ!」と
目をきらきらさせて元気よく答えました。
これは、よほど欲しいものがあったに違いありません。

「お金足りる?足りなければ兄さんが貸してあげようか?」
それほど欲しいものならば買い逃してしまってはかわいそうです。
だけどアイオリアはにこにこして答えました。
「ううん大丈夫。にいさん、あのね、あのね・・・
今からアイオリアと一緒に来てくれる?」
アイオリアが袖を引っ張ってそういってお願いするので
アイオロスは一緒にお出かけすることにしました。

アイオリアは何が欲しいのかな?お菓子かな?おもちゃかな?
道行く途中で尋ねてもアイオリアはひみつだと言って答えてくれません。
ただ片手に小銭を握り締め、もう片方の手でアイオロスの手を引っ張って
どんどん、どんどん進んでいきました。

そして・・・

「にいさん、ここ!」

そういって連れてこられた所はお味噌やおしょうゆを売っているお店でした。
思いもかけない場所にアイオロスがびっくりしていると、
アイオリアはお店の人に元気な声で話しかけました。
「甘酒をふたつ下さい。えっとね、今日はにいさんのお誕生日だから、
にいさんのお茶碗にはたっぷりついであげて下さい。」
そう言ってお店の人に、ずっと握りしめていた小銭を渡しました。

アイオロスは本当にびっくりしてしまいました。
あのちっちゃなアイオリアが、自分のおこづかいで
アイオロスのためにお誕生日のお祝いをしてくれるというのです。
アイオリアだって自分で欲しいものがあったでしょうに・・・。
アイオロスはとっても感激して胸がいっぱいになりました。

お店の人は、二つの湯のみ茶碗のどちらにも
たっぷりと甘酒を注いで二人に渡してくれました。
ここはおいしいお味噌やおしょうゆを売っているお店なので、
その米麹で作った甘酒もほっぺたが落ちるほどおいしいのです。

「アイオリア、とってもおいしいよ。ありがとう!」
猫舌のアイオリアは甘酒をふーふーしながらちょっと照れくさそうに笑いました。
「兄さん、お誕生日おめでとう。」

アイオリアがごちそうしてくれた甘酒は、アイオロスがいままでで飲んだ甘酒の中で、
一番甘くてあったかくておいしいものでした。
・・・それはきっと、アイオリアの真心が醸し出してくれたものなのでしょう。